東京高等裁判所 平成12年(ネ)4198号 判決 2000年12月05日
控訴人(原告)
株式会社ナコインターナショナル
右日本における代表者
【A】
右訴訟代理人弁護士
吉田武男
同
杉浦智也子
被控訴人(被告)
有限会社ブルブル
右代表者代表取締役
【B】
被控訴人(被告)
阿部ハトメ株式会社
右代表者代表取締役
【C】
右訴訟代理人弁護士
中根秀夫
同
中根秀樹
主文
本件控訴を棄却する。
控訴人の当審における予備的請求を棄却する。
控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一控訴人の求めた判決
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは、控訴人に対し、各自金一四五八万円及びこれに対する平成一〇年六月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 次の二のとおり、控訴人が当審において予備的請求を追加し、また、次の三、四のとおり、当審における控訴人及び被控訴人阿部ハトメ株式会社の主張の要点を付加するほか(被控訴人有限会社ブルブルは、当審における口頭弁論には出頭しておらず、追加の主張はない。)、原判決の「第二 事案の概要」のとおりである。なお、当裁判所も、「本件第一商品」、「本件第二商品」の用語について、原判決と同様に用いる。
控訴人は、控訴人が製造した本件第一商品(ネコの手を模した形態のミニゲーム機)と実質的に同一の形態の本件第二商品を被控訴人らが他の玩具メーカーに製造させ、これを輸入、販売する行為は、不正競争防止法二条一項三号に該当するとして、同法四条に基づき、被控訴人ら各自に対して一四五八万円の損害賠償を請求したのに対し、原判決は、被控訴人らは、本件第一商品を商品化して市場に置くに際し、費用及び労力を投下してその制作に関与した者であると認定し、被控訴人らにとって本件第一商品は、同法二条一項三号に規定する「他人の商品」に該当しないと判断して、控訴人の本訴請求を棄却した。
二 控訴人の当審における予備的請求
控訴人は、仮に、被控訴人らが本件第二商品を輸入、販売した行為が、不正競争行為に当たらないとしても、被控訴人らの右の行為は、控訴人の営業上の利益を違法に侵害するものであるとして、被控訴人らに対して、民法七〇九条に基づく損害賠償として同額の金員の請求を予備的に追加した。
三 当審における控訴人の主張の要点
1 被控訴人らが本件第一商品を商品化するに際し、若干の関与をしたことは否定しないが、その関与の内容は、次のとおり、本件第一商品が被控訴人らの商品であると評価し得るほどの費用と労力とを被控訴人らが投下したというには程遠いものであるといわざるを得ず、本件第一商品は、被控訴人らにとって、不正競争防止法二条一項三号規定の「他人の商品」に該当する。
(一) 確かに、本件第一商品の外観デザインを最終的に確定するに際し、被控訴人らが関与したことは否定しないが、これは、控訴人が、日本国内でその商品を販売することになっていた被控訴人らから、販売者としての立場からの意見を聴取したものであって、商品そのもの、すなわち、当該ゲームの中身の考案はもちろん、商品のデザインについて最終的に決定したのは控訴人である。このように、商品の製造元が商品を販売する業者からこの種の意見を聴取することはよくあることで、特に、本件のように、商品の市場の情報や動向等に疎い国外の商品の開発や製造業者の場合はその傾向が顕著なのであり、原判決は、この点について事実を誤認して、被控訴人らの関与の中身を過大に評価したものである。
(二) 本件第一商品のパッケージデザインや取扱説明書について、被控訴人有限会社ブルブルが決定し、作成したことは、原判決認定のとおりであるが、本件で問題となっているのは、パッケージや取扱説明書ではなく、商品そのものであるから、これらの点を問題とするのは筋違いである。そもそも、被控訴人有限会社ブルブルがパッケージデザインや取扱説明書を決定・作成したのは、控訴人製造の本件第一商品を控訴人から購入して、国内で販売するために、その販売元としてしたものにすぎない。本件のように、外国製品を輸入し、日本国内で販売するケースでは、国内の販売業者が、国内販売の実情に合わせて、パッケージや取扱説明書を作成することはよくあることである。原判決の考え方によれば、製造元から商品を購入した販売業者が、その立場でパッケージや取扱説明書を作成して商品を販売した場合、商品化のために費用を負担したということになり、そのような販売業者が当該商品を模倣して製造、販売しても不正競争に当たると判断される余地があり、不当である。
(三) 原判決は、被控訴人らが新規商品である本件第一商品の一〇万個を市場に流通させ、販売することによって費用の回収を図ることができるか否かのリスクを専ら負担したと判示しているが、被控訴人らは、自ら判断の上で利益を追求して控訴人から商品を購入して国内市場で販売しようとしたもので、控訴人のリスクを背負う意思は毛頭なかったものである。原判決の考え方によれば、新規開発商品を購入する者は、新規の商品化に伴うリスクの負担者となってしまう。
2 仮に、被控訴人らが本件第二商品を輸入、販売した行為が、不正競争行為に当たらないとしても、被控訴人らの右の行為は、控訴人の営業上の利益を違法に侵害するものであり、民法七〇九条の不法行為に該当することは、次のとおり明らかである。
(一) 被控訴人らが控訴人以外の第三者である香港の玩具メーカーから購入したと主張する本件第二商品は、控訴人が被控訴人らに販売した本件第一商品と、商品の外観だけでなく、そのゲームの中味についても実質的に同一である。これは、控訴人が被控訴人らに提供した脚本(甲第五号証の一)や被控訴人らが保持していた本件第一商品に関する図面等の資料を被控訴人らが香港のメーカーに交付して製造させたものと考えられる。
(二) 本件第一商品の商品化の過程で、商品の形状については被控訴人らの関与があったことは否定しないものの、控訴人の役割、すなわち、商品の基本的な形状や中心となるゲームの中味を考案し、商品を具体化させ、控訴人の費用で製造を手配したこと等を考慮すれば、そのことを熟知していた被控訴人らが、本件第一商品と形状やゲームの中味を実質的に同一とする本件第二商品を右(一)の方法で第三者に製造させ、それを輸入し、販売する行為は、違法な行為であり、控訴人の営業上の利益を侵害する不法行為に該当する。
四 当審における被控訴人阿部ハトメ株式会社の主張の要点
1 控訴人は、原判決の誤りを主張するが、原判決は、本件第一商品の商品化における被控訴人らの役割を適切に認定したものであり、控訴人の主張は理由がない。
2 控訴人の予備的請求について、次のとおり、被控訴人阿部ハトメの行為には、控訴人の営業上の利益を侵害する違法性は存在しない。
(一) 控訴人の予備的請求の主張は、そもそも、被控訴人らのいかなる行為が、控訴人のいかなる権利を侵害し、また、なぜ違法と評価されるのかについて明らかでない。
(二) また、被控訴人阿部ハトメ株式会社は、被控訴人有限会社ブルブルが本件第二商品を輸入する際に、その代金決済のために信用状(LC)を組んだにすぎず、本件第二商品を販売したのは、被控訴人有限会社ブルブルであって、被控訴人阿部ハトメ株式会社ではない。
(三) もともと本件商品は、被控訴人らが開発した商品であり、その製造を控訴人に委託したにすぎない。
そして、被控訴人有限会社ブルブルが第三者に本件第二商品を製造させたのは、次の事情による。
すなわち、被控訴人有限会社ブルブルによって本件第一商品が開発された後に、控訴人が最初に注文された(平成九年三月一〇日ころ)本件第一商品の一〇万個を生産開始にこぎ着けるまでに約三か月もかかり、ようやく生産開始した後も、控訴人がICチップを仕入れることができなかったためにゲーム部分が完成することができず、初回の入荷が平成九年七月の半ばころまで遅れ、しかも、控訴人による一回の納品は数百個から数千個足らずしかなく、同年八月の終わりころになってようやく合計約九万個が納品されるという状況であった。このために、被控訴人らは、納期が遅延し、販売の正確な予定も立たないために、納品先から多数のキャンセルを受けるなど、取引先の対応に大変苦労した。そればかりか、控訴人は、被控訴人らに対して、一方的に、本件第一商品の単価の値上げを要求し、もし、以後の注文がない場合には、「貴社のデザインを他社及び他の市場に売る。」と申し渡すなどしたために、いわば、時期ものの本件第一商品を控訴人に発注していたのではビジネスにならないと判断したために、被控訴人有限会社ブルブルが他の第三者に本件第二商品を発注せざるを得なかったのである。
第三当裁判所の判断
一 不正競争防止法四条に基づく損害賠償請求について
1 当裁判所も、原判決が「第三 当裁判所の判断」として説示するとおり、被控訴人らは、本件第一商品を商品化して市場に置くに際し、費用及び労力を投下してその制作に関与した者であり、被控訴人らにとって本件第一商品は、同法二条一項三号に規定する「他人の商品」に該当せず、控訴人の被控訴人らに対する同法四条に基づく損害賠償請求は理由がないものと判断する。
2 控訴人の当審における主張は、いずれも、被控訴人らが本件第一商品の商品化に当たってした行為を、個別に分断して評価して主張するか、原判決摘示の証拠関係に照らし是認することができない原判決認定に反する事実を前提として主張するものであり、被控訴人らが本件第一商品を商品化した者であるとの右の認定、判断を覆すには足りないものであって、失当である。
二 当審における予備的請求(民法七〇九条に基づく損害賠償請求)について
1 原判決認定の前記の事実によれば、本件第一商品の商品化に当たり、被控訴人らは、その費用と労力とを投下してその制作に関与した者であり、他方、控訴人も、当該ゲームの商品化の企画を被控訴人らに持ち込み、被控訴人らと協議をしながら試作品を作成し、被控訴人らからの注文を受けて本件第一商品の製造に当たるなどして関与した者であると認められるところ、控訴人と被控訴人らとの間で、本件第一商品の商品化に当たり、その商品化に関する権利関係につき明確な合意を取り交わしていなかったことは、弁論の全趣旨に徴し明らかである。
そして、甲第一五号証、第一八号証、乙第一七、第一八号証及び弁論の全趣旨によると、被控訴人らは、控訴人に対して当初発注した本件第一商品の一〇万個の納品の時期及び数量、特に納品の遅延について不満を持ち、また、控訴人から本件第一商品の売買代金単価値上げの要求等を受けたこともあって、本件第一商品について、以降、控訴人に発注することを取りやめて、被控訴人らは、第三者に対して本件第二商品の製造を注文して輸入し、日本国内で販売するに至ったことが認められる。
2 右によれば、本件第一商品の商品化に当たった被控訴人らが、控訴人の同意を得ることなく、本件第二商品を輸入し、販売したことが、不法行為を構成する違法な行為であると断ずることは困難であるといわざるを得ず、そのほか被控訴人らの右行為の違法性を肯定するに足りる権利侵害や法益侵害の具体的な事実につき主張及び立証はない。
3 したがって、控訴人の被控訴人らに対する民法七〇九条に基づく損害賠償請求も理由がない。
第四結論
以上によれば、原判決は相当であり、本件控訴は理由がなく、控訴人の当審における予備的請求も理由がないから、いずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 橋本英史)